人権委員会の訴訟関与(人権擁護法案検討メモ―番外編その5)

<はじめに>

 前回は、「人権委員会が収集した資料の閲覧謄写(法案第63条)の問題点」について述べました。今回は人権委員会が訴訟に直接関与する場合について考えます。

人権委員会の訴訟参加とは>

第63条第1項
 人権委員会は、第60条第1項(第72条第1項又は第78条第1項において準用する場合を含む。)の規定による勧告がされた場合において、当該勧告に係る人権侵害の内容、性質その他の事情にかんがみ必要があると認めるときは、当該人権侵害に関する請求に係る訴訟に参加することができる。
第63条第2項
 前項の規定による参加の申出については、民事訴訟に関する法令の規定中補助参加の申出に関する規定を準用する。

いや〜、わからん。

 まず「補助参加」とは、他人間の訴訟の結果につき利害関係を持つ第三者が、当事者の一方を勝訴させることによって、間接的に自己の利益を守るためにその訴訟に参加する参加形態のことをいうようです。
 法案を言い直すと、
「特別人権侵害があったと人権委員会が認定し「勧告」までおこなった事件について、被害者が当該人権侵害について差止請求/損害賠償請求訴訟を提起したとき、人権委員会は被害者側の補助参加人になることができる」
ということになるでしょう。
 人権委員会はどんな訴訟にでも補助参加できるわけではなくて、法案には「人権侵害の内容、性質その他の事情にかんがみ必要があると認めるときに(訴訟に)参加することができる」と定めています。これは、当事者の事実上の訴訟追行能力(端的にいえば経済力)や被害の深刻さなどが考慮されるということでしょうか。(親から虐待を受けている未成年者など、法律上の訴訟能力に制限がある者が当事者である場合は、補助参加ではなく「特別代理人」を選任することで対応することになるはずです。)

 ・・・どうもイメージがつかめません。当事者の経済力や被害の深刻さは様々ですから、どこで線引きするか極めて困難です。場合によっては、人権委員会の「訴訟に補助参加しない決定」が新たな争いの対象になるかも知れません。

<補助参加の性質>

 「人権委員会が補助参加するかしないかの線引き」を考えるために、「人権委員会の補助参加」の性質についてもう少し述べてみます。
 民事訴訟における「補助参加」の中に、行訴法23条の「行政庁の訴訟参加」というものがあります。

「行政庁の訴訟参加」
 例えば土地所有権確認訴訟において、被告は有効な行政処分(例えば農地買収処分や土地収用裁決)に基づいて所有権を取得したと主張し、原告はその行政処分は無効なので依然として自分が土地所有者だと主張するとします。この場合、形は通常の民事訴訟ですが、実態は行政処分の有効性をめぐる争いにほかならないことになります。
 行訴法は、このような訴訟を民事訴訟として扱いつつ、取消訴訟の規定の一部を準用することとしています(行訴法45条)。準用される規定の中に、「行政庁の訴訟参加」(行訴法23条1項・2項)があります。これにより裁判所は、申立てにより又は職権で関係行政庁を訴訟に参加させることができます。また参加した行政庁は、補助参加人に準じて攻撃防御方法の提出(処分の効力・存否に関するものに限る)や上訴の提起ができるとされています(行訴法45条2項、民訴45条1項)。

 民事訴訟における補助参加人は、当事者とは独立した地位を有し、例えば、独自の判断で攻撃防禦方法の提出、異議申立、上訴提起などの一切の訴訟行為をすることができるとされていますが(民訴法45条1項)、「行政庁の訴訟参加」として理解するのであれば、人権委員会の行いうる訴訟行為は、自ら行った「勧告」の当否に関するものに限られるということになるでしょう。
 そのように考えていけば、人権委員会民事訴訟に補助参加するかどうかの判断基準とされる「人権侵害の内容、性質その他の事情」とは、当事者の訴訟追行能力などではなく「その訴訟において『勧告の正当性』が主要な争点となっているかどうか」であるということが出来ます。

第63条第3項
 人権委員会が第1項の規定による参加の申出をした場合において、当事者が当該訴訟における請求が当該勧告に係る人権侵害に関するものでない旨の異議を述べたときは、裁判所は、参加の許否について、決定で、裁判をする。この場合においては、人権委員会は、当該訴訟における請求が当該勧告に係る人権侵害に関するものであることを疎明しなければならない。

<訴訟参加のありかた―他の選択肢>

 ところで独占禁止法には、次のような規定があります。

独占禁止法 第83条の3
  裁判所は、第24条の規定による侵害の停止又は予防に関する訴えが提起されたときは、その旨を公正取引委員会に通知するものとする。 
2 裁判所は、前項の訴えが提起されたときは、公正取引委員会に対し、当該事件に関するこの法律の適用その他の必要な事項について、意見を求めることができる。 
3 公正取引委員会は、第1項の訴えが提起されたときは、裁判所の許可を得て、裁判所に対し、当該事件に関するこの法律の適用その他の必要な事項について、意見を述べることができる。 

 独占禁止法のような「裁判所に対する意見」という訴訟参加形式ではなく、「補助参加」という一方当事者に傾斜した訴訟参加形式をとったのは、“差別撤廃”に向けて国が積極的に関与していくという姿勢の現われなのかも知れません。
 しかし「人権委員会の中立性」の観点から制度を考えるならば、独占禁止法のような「意見を述べる」という仕組みも充分検討に値するように思われます。

 今回は、本当にわかりませんでした。難しいです、法律って。
 次回はいよいよ「差別助長行為の差止請求訴訟」です。