違法な「勧告」を受けたらどうするの?(人権擁護法案検討メモ―番外編)

このテーマはずっと後で書くつもりだったのですが。

現在、人権擁護法案を取り上げられているブログのうちいくつかについて、以下の質問をさせていただいています。

法案に規定されている勧告、公表など人事委員会の行う行政行為に対する不服申立のありようについてお尋ねしてもよろしいでしょうか。

 人権委員会の行う勧告(法案60条)は、勧告の名宛人に対して一定の行為をやめるべきこと又は当該行為若しくはこれと同様の行為を将来行わないことその他被害の救済又は予防に必要な措置を執るべきことを慫慂するに過ぎず、必ずしも具体的権利義務を形成しまたはその範囲を確定するものではありませんが、このことをもって裁判所が「勧告は『行政庁の処分』にあたらない」として取消もしくは無効確認を求める訴えを不適法とするようなことはあり得ますでしょうか。
 また、勧告の取消もしくは無効確認の訴えが係属中である場合において、勧告に従わなかったときの勧告の公表(法案61条)は当然にその執行が停止するのでしょうか。それとも勧告に対する取消もしくは無効確認の訴え提起の有無にかかわらず当該勧告の公表は行われ、勧告の名宛人は公表行為に対する不服申立を別途行うことを求められるのでしょうか。
 人権委員会法務省の外局とされていますが、人事委員会の行う処分(処分性があるとして)についての不服申立はまず審査請求によるべきでしょうか(審査庁があるとして)。それとも直ちに行政訴訟手続に移るのでしょうか。

 私は、「異議申立ができるか」という点については、処分庁(人事委員会)が外局の長であるため、「処分について審査請求をすることができるときは、法律に特別の定めがある場合を除くほか、することができない」とされ(行政不服審査法第6条但書)、そして人権擁護法案には異議申立について特別の定めがないことから、法案の「勧告」「公表」について異議申立できないのではないか、と考えています。

 では「裁判すればいいのか」ということですが、通説は行政行為について一般的に「処分」性を承認していますが、判例・実務は若干の行政行為についてその処分性を否定しておりまして、「勧告」が明らかに処分であるとは言いきれないのではないかと思います。この点については、以下の判例を根拠としています。

「仮りに右設置行為によつて上告人らが所論のごとき不利益を被ることがあるとしても、右設置行為は、被上告人都が公権力の行使により直接上告人らの権利義務を形成し、またはその範囲を確定することを法律上認められている場合に該当するものということを得ず、原判決がこれをもつて行政事件訴訟特例法にいう「行政庁の処分」にあたらないからその無効確認を求める上告人らの本訴請求を不適法であるとしたことは、結局正当である。」(最判昭和39年10月29日)

 したがって法的拘束力を持たない「勧告」を処分と言い得るかどうかは疑問であり、「勧告」を不当であると訴えても「不適法」として審査されない可能性があると考えられます。
人権委員会が勝手に『差別』と処断してしまう!」という反対派の声に対しては、「司法の判断を仰げばよいではないか」という反論がなされてきましたが、それは果たして本当なのでしょうか?フタを開けてみれば、司法審査の及ばないところで“思想犯”を晒し者に出来ちゃうんじゃないの?