知財高裁と人権擁護法

知的財産高裁の初代所長に篠原勝美氏

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20050309i106.htm

 特許や著作権を巡る訴訟を専門に扱う国内初の裁判所として来月1日に新設される「知的財産高等裁判所」の初代所長に、東京高裁部総括判事の篠原勝美氏(60)が就任することが9日、分かった。 
 最高裁の裁判官会議で了承されており、知的財産保護の中核となる知財高裁のかじ取りを担うことになる。 
 篠原氏は東京高裁知財専門部の裁判長として、「審理が遅く、専門技術への理解が足りない」と産業界から批判されてきた知財訴訟の改革に当たった実績を買われ、所長登用が決まった。 
 東京高裁内に設けられる知財高裁は、計4部から成り、知財訴訟に通じた裁判官18人、調査官約10人のほか、大学教授や研究者らから任命された非常勤の専門委員約100人を抱える。特許に関する特許庁の審決が妥当かを判断する訴訟全部を1審として担当するほか、特許権侵害に対する賠償請求訴訟や差し止め訴訟についてもすべての控訴審を引き受ける。 
 このうち、企業活動に重大な影響を与える訴訟などでは、裁判官5人による「大合議」で審理し、所長が裁判長を務める。同高裁の裁判官会議を取りまとめ、所内の人事配置を決めるのも所長の権限となる。 
 知財訴訟を主に扱う裁判所は、米国やドイツなど少数の国にしかなく、充実した審理で特許権侵害や模倣品の輸入に歯止めをかける効果が期待されている。

 おおっ、知らなかった。いつの間にこんな制度が*1。まあ、“知財立国”を目指すわが国としては、専門性の高い知的財産権紛争を集中して扱う部署を設け、人的リソースを集中させることで紛争処理の迅速化と法的判断の安定化を図ることは必要なことであろうと思います。

 ところで、今まで様々な形で司法制度の拡充が図られてきました。例えば

1)汎用機としての裁判所の処理能力を高めることを目的としたもの
 いわゆる司法制度改革(法曹数の増加、集中審理による処理の迅速化)がこれにあたります。また調停、特定調停、少額訴訟などの特別な処理手続を設ける場合や、弁論兼和解など手続の簡便化を図る例もあります。

2)専用機としての(準)司法機関を設けたもの
 司法制度内部に専門分化した機関を置く例として家庭裁判所や今回の知財高裁があります。専門部の設置は、事実上専用機の導入になるかも知れません。
 司法制度外に準司法機関を設ける例としては、公取委や公調委、労働委、国税不服審判所、海難審判庁など多数あげられます。また、自賠責保険・共済紛争処理機構など個別法令に基づく民間紛争処理機関や弁護士会弁理士会の仲裁センターなどもありますし、今後はADR法に基づく認証を受けた民間紛争処理業が多数登場することになるでしょう。
 
 これらは、対象とする紛争が類型化できること、処理にあたって専門的知見が要求されること、回復すべき利益が訴訟による処理コストに見合うほど大きくないことなどが明らかになったときに登場してきた制度です。

んで、次の記事ですが。

人権擁護法案:自民部会が反発 15日閣議決定は困難

http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/seitou/news/20050310k0000e010057000c.html

 自民党の法務部会と人権問題等調査会の合同会議は10日、政府が今国会に再提出する人権擁護法案について法務省の説明を受けて審議した。しかし異論や反対意見が続出し、この日の了承を見送った。合同会議は15日に改めて審議する。このため政府が目指していた15日の閣議決定は困難になった。

 人権擁護法案は、
①現行の人権侵犯事件調査処理規定(法務省訓令)を法に格上げしその執行機関として人権委員会を新設(法務省人権擁護局を改組)する。
②ボランティアの人権擁護委員を各地に配置する(現行の人権擁護委員制度を“ほぼ”踏襲。“ほぼ”の部分に異論ありですが)。
人権委員会に、人権侵犯事件に係る調停・仲裁を行う権能を付与する。
 ことを目的とした法律です。また、現行は任意である人権侵犯調査と新設予定の人権侵害調停/仲裁についてこれを拒否する者に対する罰則も定めています。
 
 人権侵害というのはおそらく裁判所にとってストライクゾーンど真ん中だと思われるのですが、従来の司法救済によっては救済しきれないと言うのでしょうか。私にはそう思えませんが、もしそうであるならば、裁判制度そのものを見直す必要があるわけで、人権擁護法による調停/仲裁なんていう特別法で何とかする問題ではないと思います。なんでそうならないのか。私は法律の専門家ではありませんので、素朴にそう思います。ただまあ、法案は一つの選択だろうとも思うわけで、それはそれで別途検討していきたいと思います。 
 正直なところよくわからないので、いくつかのブログを拝見したり時によってはコメントを書いたりして考えをまとめようとしています。

 特に、人権擁護法案が浮上した経緯については、徳保隆夫氏がもっともよく纏めておられ、参考になりました。
 「趣味のWEBデザイン」*2
 法案に賛成の方も反対の方も、まずはこちらに目を通されてからでないと、議論には参加できないだろうと思うくらいです。
 私の拙い疑問に応えていただいているブログはこちらです。
 「音極道茶室」(J2氏)*3
 「札幌から ニュースの現場で考えること」(高田昌幸氏)*4
 こちらは非常に理性的な対話姿勢を保たれているので、胸を借りさせていただいています。
 主に立法技術の観点からその妥当性について述べておられるのは、こちらです。
「ITのTop Front」(小倉秀夫氏)*5
 人種差別撤廃条約との照応性や他の立法例との比較を通じて、人権擁護法案の射程について分析されています。

 他にもかなりの数のサイトやブログがありますので、順次拝見して、勉強していきたいと思います。