裁判官1人の再任を拒否 最高裁が決定(6月8日追記あり)

http://www.kahoku.co.jp/news/2005/03/2005030201001079.htm

 最高裁の裁判官会議は2日、主に今年4月に10年の任期切れを迎える判事、判事補計165人のうち、1人を再任しないことを決めた。1969年以降、再任を拒否された裁判官はこれで計8人となった。
 下級裁判所裁判官指名諮問委員会(委員長・奥田昌道元最高裁判事)が昨年12月、4人の再任を不適当と最高裁に答申。3人はその後、再任希望を取り下げたが、残る1人は審議の結果、答申通りとした。
 最高裁はこの1人について「資質、能力を総合的に判断して、裁判官に適さないとされた」としている。(2005年03月02日水曜日)

 下級裁判所裁判官指名諮問委員会は、2003年5月1日より最高裁に設置された機関です*1。それまでの再任人事は最高裁が事実上取り仕切り、再任されなかった場合その理由が明らかにされなかったため、再任拒否の妥当性を疑われることもありました。
今般の司法改革の一環として、法曹3者及び学識経験者によって構成される同委員会が設置されました、同委員会は最高裁の諮問に応じて下級裁判所裁判官の再任の適否について審議し、その結果を理由も含め答申することになったということのようです。

 さて、もしも再任されなかったとき、その裁判官は異議を申し立てることができるのでしょうか。
 下級裁判所裁判官は、最高裁の指名した名簿によって、内閣が任命することとされています(憲法80条)。従って、最高裁の作成した再任候補者名簿に登載されているにもかかわらず内閣が任命しなかった場合は、その「任命しなかった」処分の適法性をめぐって行政訴訟を提起することが可能ということでしょう(但し、今まで最高裁が指名した者を任命しなかった例を寡聞にして知りません)。
 では、最高裁が再任候補者として指名しなかったとき、その「指名しなかったこと」の違法性・不当性を争うことは可能でしょうか。
 この点につき、「最高裁判所が判事補採用願を提出した者を指名しなかったことが『行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為』に該当しないとした裁判例があります(東京地判平8・9・11判例タイムズ第944号)*2
 また、下級裁判所裁判官指名諮問委員会規則には、委員会が指名候補者に対して説明を求めたり意見を聞くことができても、指名が不適当とされた候補者の側から委員会に対し説明を求めたり異議を申し立てたりできることを定めた規定はないようです(残念ながら私には見つけることができませんでした)。
 裁判官は、憲法上もっとも身分を保障されるべき立場とされているはずですが、これは10年の任期中に限ってのことのようで、10年毎の再任期において不適当と判断された場合はその判断の是非を争うことができない(異議申し立て手続が明確に定められていない)のは意外に感じますし、このような制度の下で本当に裁判官の独立が保てるのか疑問に思います。

追記(6月8日)

判事補任官拒否訴訟、神坂さんの上告棄却 最高裁

司法修習を終えて裁判官を志望した神坂直樹さん(41)=大阪府箕面市=の判事補任官を最高裁が拒否したのは、思想信条を理由にした違憲・違法なものかどうかが争われた訴訟で、最高裁第三小法廷(藤田宙靖裁判長)は7日、神坂さんの上告を棄却する決定をした。最高裁の人事施策の憲法適合性について裁判所自身がどこまで判断できるかが注目された訴訟は、提訴から10年を経て最高裁が実体判断を示さないまま、神坂さん全面敗訴で決着した。

 判決理由については不明ですが、そもそも最高裁の判断の是非を最高裁が判断することが可能なのかという“根源的な問い”が生じてきます。
 なお、本件訴訟を審理した第3小法廷の金谷利廣裁判官(2005年5月16日退官)は、任官拒否当時の最高裁事務総長だったそうですが、忌避申立は認められなかったそうです。

*1:http://courtdomino2.courts.go.jp/oshirase.nsf/0/e50162297bcbecb549256d1900052bd1?OpenDocument

*2:これは再任ではなく判事補新任をめぐる事例です