「良質な開業医」育てよう 家庭医療学会が認定制度

http://www.asahi.com/national/update/0307/TKY200503070590.html

 良質な診療ができる「町のお医者さん」を育てよう――日本家庭医療学会(1100人)は、患者の家庭環境をふまえて病気やけがの初期診療ができる若手医師を「家庭医」として認定する。医学関係の学会の認定医や専門医制度は専門分野に特化したものが多く、初期診療では整備が遅れていた。同学会は家庭医の先進国・英国の学会と連携し、高い診療レベルをもつ家庭医を根付かせたい考えだ。
(中略)
 認定は、開業をめざす医師が中心で、学会の研修の後に試験をして判断する。
 試験では(1)模擬患者の診察(2)後輩への指導ぶり(3)家庭医への熱意をはかる論文――などで適性をみる。合格後も数年ごとに試験をしてレベル維持を図る。1回目は今夏にも実施する予定で、同センターなどで研修中の10人前後が受ける見込み。
 家庭医は、欧米やマレーシアなどで専門分野として確立している。日本では同センターなど数カ所で研修しているが、内容にばらつきが生じるため、学会は統一の資格を作ることにした。
 認定を受けても診療報酬に反映されないが、患者の医師選びの判断材料になり、医師側の意欲につながる。<<
 この認定基準って、家庭医というより“医師そのものの適性”じゃないかと思うんですけど。医師会はこのような「箔付け」には熱心ですね。もともとの“医師”という箔の価値が下落しているからでしょうか。
 では、“医師”という箔を守るための仕組みはどうなっているのでしょうか。医師として不適格であるとされる者に対する処分は、厚生労働省に設置された「医道審議会」によって審議されます。*1
 ここで医師免許の取り消しや医業停止について審議されるのですが、従来は刑事事件で有罪となった医師・歯科医師に対して行政処分がなされていたようです。内訳はわいせつ罪などの破廉恥罪、覚醒剤、贈収賄、脱税や診療報酬不正請求、業務上過失致死傷、などが主なものですが、中には日本赤軍重信房子をかくまった罪で有罪判決を受けた医師が医師免許を剥奪されたりもしています。

 6月27日の朝刊を見て、心が震えた。医道審議会の答申が出され、医師免剥奪が6名出ているなかに、元千葉徳洲会病院院長の村田恒有氏の名前があったことだ。直接の知り合いなどではないが、地域医療研究会での大物である。よく名前は聞いてきた。日本赤軍重信房子をかくまった罪で、彼は逮捕され、昨年地裁判決を受けている。
(中略)
 その彼が、今回医師免剥奪の処分となる。医道審議会は、毎年医師にあるまじき行為をしたという医師、歯科医師の免許を停止したり剥奪するという権限を有している。もちろん実行者は厚労大臣ということになるが、答申どうり実施されるため、実質的にはここが一審制の最高権力として存在する。今まで医師免剥奪といえば、殺人、放火、強制猥褻、暴行、脅迫など、粗暴犯に限られ、おそらくは実刑確定者を対象になされていたはずである。今年の村田氏を除く5名の剥奪者は、殺人、放火、強姦である。彼らがこのような処分を受けることに対し、特に異議はない。まさしく医道に外れた行為であると思えるからだ。
しかし、今回の村田氏への処分は、医道に外れた行為と果たしていえるのであろうか。
(“Dr.山本の診察室 コラム「2002年7月1日 医道審議会の品格を疑う」*2より抜粋)

 他方、刑事責任を問われるに至らない医療過誤等については行政処分の対象とされてきませんでしたが、医療過誤が社会問題化するにつれて医師や医師を監督する厚労省の責任を問う声が高まり、平成14年12月23日には医道審議会が「医師・歯科医師に対する行政処分の考え方について」の見解を発表するに到りました。
 その内容は、「刑事事件とならなかった医療過誤についても、医療の水準などに照らして、明白な注意義務違反が認められる場合などについては、処分の対象として取り扱う。」、さらに、行政処分の程度は「基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、明らかな過失による医療過誤や繰り返し行われた過失など、通常求められる注意義務が欠けているという事案については、重めの処分とする。」、そして「生涯学習に努めていたかなどの事項も考慮する。」として、研修の必要性を強調していました。その他、生命を預かる医師として高い倫理性を求め、「ひき逃げ事件」や「医療における脱税」には「通常より重めの処分とする」としています。
 この見解が出された後もしばらくは民事で有責となったものの刑事で訴追されなかった医師が処分の対象となったことはありませんでしたが、今年に入って富士見産婦人科医院の元院長が医師免許を取り消されました。これが民事訴訟判決を基に行政処分した初のケースということのようです。

<富士見産婦人科事件 元院長の免許取り消し 3医師は医業停止>
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20050303/mng_____sya_____006.shtml
「乱診乱療」が問題になった埼玉県所沢市の富士見産婦人科病院事件に関与した医師について、医師の行政処分を検討する厚生労働省医道審議会は二日、同病院の北野千賀子元院長(78)の医師免許取り消しと三人の医師の医業停止処分を尾辻秀久厚労相に答申し、同日決定した。処分は三月十六日付で発効する。民事判決を基にした処分は初めて。 
 一九七一年度以降、医療行為で免許取り消しになったケースはない。でたらめな診療で子宮や卵巣を摘出されたとする同病院の医療行為は発覚から二十五年を経てようやく処分が下された。
(中略)
 北野元院長は、かかわった事案の件数や責任ある立場であることから免許取り消しとした。関与の割合などから佐々木京子(66)、青井保男(76)の両医師は二年、楢林重樹医師(80)は六カ月の医業停止処分にした。一人の医師については積極的にかかわっていないとして戒告にとどめた。

 日本赤軍重信房子をかくまった罪が医師免許の剥奪に値するという判断を論難するつもりはありません。ただ、医師の職業性と無関係な非行事実を根拠として医師の資格が左右されるのであれば、何も「医道審議会」などという仰々しい機関で審査するまでもなく“有罪判決=医師免許剥奪”でよいのではないかと思います。
 現在、医療事故を複数回起こしながら刑事責任を問われるに到っていない、所謂リピーター医師については、行政処分がなされておりません。例えば自動車事故を起こして業過致傷に問われた医師に行政処分を下し、医療過誤を認定された医師に対して専門家としての責任を問わない「医道」とは、いったい何だろうと思うわけです。
 各種認定医制度も結構ですが、基礎となる医師資格そのものの品質保証をきちんとすることのほうが先決ではないでしょうか。

*1:審議会委員は次の通り。岩井宜子(専修大教授(刑法・刑事政策))、植松治雄(日本医師会長)、片山 仁 (大東医学技術専門学校長)、鎌田 薫(早大教授(民事法))、見城美枝子(エッセイスト)、赫 彰郎(日本医科大学教授)、堀田 力(弁護士)、山路憲夫(白梅学園短大教授(社会福祉))(平成16年7月29日時点) 

*2:http://www3.coara.or.jp/~makoty/column/020701column.htm