神戸家裁の井垣判事が退官、少年審判「改革」

http://osaka.yomiuri.co.jp/news/20050122p402.htm

 一九六七年任官。三十八年間に及ぶ裁判官生活の多くを家裁や地裁支部で過ごした。少年審判は九七年四月に着任した神戸家裁で初めて担当。以後の約八年間で、計五千人を超える少年たちと向き合ってきた。
 「少年の将来を社会に託す以上、情報を公開しなければ」と、少年たちが更生していく様子をすすんで講演会などで紹介。連続児童殺傷事件では、犯行の背景や精神状態にまで踏み込んだ決定要旨を公表した。

 井垣判事といえば“酒鬼薔薇聖斗事件”の担当審判官であり、「少年問題ネットワーク」設立人の一人として精力的に講演等を行われていたことで有名な方ですが、他にも注目すべき判決等を出されていますね。

住友電工事件訴訟 大阪高裁 平成15年12月24日和解>

 住友電気工業(本社・大阪市)の女性社員二人が、同期同学歴の男性社員と比べて昇進などで不当な差別を受けたとして、同社と国を相手に差額賃金などの損害賠償を求めた訴訟ですが、井垣裁判長は「男女差別の是正は国際的な流れ。直接的な差別のみならず、間接的差別についても十分な配慮が求められる」「過去の社会意識を前提とする差別の残滓を容認することは社会進歩に背を向けることになる」として
① 会社は原告に1人500万円を支払う
② 原告を昇進させる
③ 国は差別是正のため積極的に調停を行っていく
という内容の和解を強く促し、和解成立にいたったものです。
 原告の昇進や国の施策変更まで踏み込んだこの和解は、和解の柔軟性を活かした、判決以上の内容であったと思っています。

<大学授業料返還訴訟 大阪高裁 平成16年9月10日判決>

 平成13年3月に大阪医科大(大阪府高槻市)への入学を辞退した元受験生の男性が、大学側に支払った前納金714万円の返還を求めた訴訟ですが、井垣裁判長は「受験生の心理状態に乗じて納付させた多額の前納金を返還しないことは、大学の収入増加を企図したものと推認できる」と指摘。「入学辞退によって大学が受ける損害に比べれば前納金は暴利行為といえ、公序良俗に違反している」として、請求を棄却した一審・大阪地裁判決を変更し、前納金のうち入学金を除いた授業料など614万円の支払いを命じる判決を下しました。
 平成13年4月の消費者契約法施行前の入学辞退者に対し、公序良俗違反を使って前納金の返還を命じたのには、勇気があるなあと感心した記憶があります。

筑豊じん肺訴訟 福岡高裁 平成13年7月19日判決>

 福岡県筑豊地方の炭鉱で働き、じん肺になった原告患者125人(うち95人が死亡)が、国と三井鉱山日鉄鉱業など3社に約40億円の損害賠償を求めた訴訟ですが、井垣裁判長は「遅くとも国は、一九六〇年三月のじん肺法の成立にあわせて炭則を見直し、さく岩機の湿式化等を義務付ける必要があったのに、これらの措置をとらず、紛じん防止策の整備を遅らせたことは、許容される裁量の限度を逸脱して著しく合理性を欠くものであり、個々の労働者との関係においても、違法である」「国がじん肺防止のために規制権限を適切に行使しなかった」と国の責任を認める判決を下しました。
 また、時効についても、「消滅時効の援用は債務者の権利だが、社会的・経済的地位や諸般の事実関係に照らして著しく正義・公平に反する時は、援用を許さず、債権の行使を許すべきだ」として救済の範囲を広げました。
 
 これら“井垣コート”判決を、弱者救済と実質的正義の実現を目指したものと評価するか、判官贔屓のあまり政治の領域に踏み込みすぎる裁判官と捉えるかはそれぞれですし、法曹界内部の評価などを知る立場ではありませんが、井垣判事を家裁や支部に配置し続けてきたところを見ると、最高裁には何がしか思うところがあったようです(あくまでも邪推ですが)。
 しかしながら、彼が長く家裁に配置されたことが、家事事件における「同席調停」方式や少年事件における当事者参加などの取り組みを可能とし、「修復的司法」への関心が高まったとも言えます。
弁護士となられてもますますご活躍されますよう、お祈りいたします。